
いつもの家を、取り戻したい。
まかべ さく
真壁 朔17歳
いつもの席を奪われた高校生。人の何気ない言葉や、昨日との違いをよく覚えている。


株式会社GATO JAPAN 企画・制作
きょうだいに、
なってしまった。

同じ母の、たった一人の子供が十二人。
七日後、残せる人生は一つ。
全三巻のオリジナル長編小説
その「ただいま」は、誰のもの?
最初のページをひらく物語
高校生の真壁朔が帰宅すると、
知らない少女が、自分の席で夕食を食べていた。
母は、その少女をわが子として扱う。
少女にも、この家で育った記憶がある。
やがて集まる、十二人。
同じ母が歩んだ、別々の人生から生まれた子供たち。
思い出も、家族写真も、すべて本物だった。
七日後、世界は一つの歴史へ収束する。
残せるのは、一人が生きてきた人生だけ。
自分の人生を奪う敵が、
消えてほしくない、きょうだいになる。
この七日間について
それぞれに、母と暮らした記憶と家族写真がある。誰も、誰かの代わりではない。
その子の人生につながる建物や道、家族の関係が、別の歴史へ切り替わっていく。
相手を知り、助け合うことはできる。それでも、全員の未来を残せるわけではない。
十二人のひとりっ子
同じ母と、別々の人生を生きた十二人。
名前を選んで、それぞれの人生へ。

いつもの家を、取り戻したい。
まかべ さく
いつもの席を奪われた高校生。人の何気ない言葉や、昨日との違いをよく覚えている。

この先の予定を、なくしたくない。
せお あかり
帰宅した朔の席で夕食を食べていた少女。この家で育った記憶と、自分の将来の予定を持つ。

争わずに済む、答えが欲しい。
わしお いおり
情報を集め、十二人が争わずに済む基準を探す十八歳。人の望みに気付くのが早い。

約束した店を、二人で開きたい。
にわ がく
配送の仕事をする青年。初対面でも重い荷物を引き受ける。恋人と食堂を開く準備中。

年上として、何ができるだろう。
さかき とうま
十二人の最年長。研究施設の保守経験があり、異変を調べながら救援を手伝う。

私の暮らしは、私が決める。
くろせ みお
一人暮らしを続けてきた女性。誰の許可も取らず、自分の生活を決めたいと思っている。

カメラに映らない顔も、知っている。
いさか なぎ
撮影と編集が好きな十五歳。人が見せたい顔をよく知り、言葉を少し盛ってしまう。

約束の時間を、守ってほしい。
しばた こはる
時計とメモを手放さない十二歳。約束した時間を守ってほしいと、いつも思っている。

僕だけが知っている道がある。
みずの わたる
運河の道に詳しい水泳少年。自分だけが知っている近道を持っている。

頼られる私にも、行きたい場所がある。
ふじしろ しの
救援の順序を組み立てる十九歳。人に頼られる一方、町を出る進路も考えている。

いつか、一人で電車に乗りたい。
とおの ゆい
十二人の最年少。いつか一人で電車に乗りたい。怖い時は怖いと、はっきり言う。

誰かの幸福で、未来を決められたくない。
くが げん
街の違いを取引材料にする青年。誰かの幸福で、自分の未来を値踏みされることを嫌う。
十二人の、同じ母
十二人全員に「母さん」と呼ばれる女性。思い出せない家族の証拠に向き合い、子供たちを守ろうとする。

記憶を、見比べる
三人が覚えている、異変前の街。
どの記憶にも、その人の人生がある。
藤城 詩乃の記憶
待合室の椅子。薬の匂い。母が存続を願った場所。詩乃にとって、その住所には人を助ける診療所があった。
久我 弦の記憶
玄関の車寄せ。上階へ続く廊下。弦の記憶では、同じ住所にホテルが建っていた。診療所など、そこにはなかった。
瀬尾 灯の記憶
建物のない空。車を区切る白線。灯の記憶では、同じ住所は駐車場だった。三人とも、自分が見てきた街を話している。
三つとも、本当にあった過去。
詩乃の人生では診療所。弦の人生ではホテル。
灯の人生では駐車場。どれも、嘘ではない。
ここで切り替わるのは、異変前の記憶です。
十二人は、同じ街にいながら、違う人生を守ろうとしています。
試し読み
第一巻
物語は、いつもの家から始まる。
「母さん。その子、誰?」
玄関で靴を脱いだとき、家の匂いがいつもと違った。
焦げた醤油でも、魚の脂でもない。もっと近くで、湿った紙を温めたような甘い匂いがする。朔は片方の踵を踏んだまま、廊下の奥を見た。
台所から包丁の音がした。三度、間を置いて、もう一度。母が葱を切るときの音だった。大きく残った一片を見つけると、必ず一度だけ切り直す。
「ただいま」
返事の代わりに、食器の触れる音がした。
朔は紺の通学鞄を持ち直した。いつもなら、流しの前から母が顔を出す。今日は廊下に出しかけた足を引っ込めて、壁の時計を見たらしい。椅子に座ったままの誰かが、短く何かを言った。
父が早く帰ったのかと思った。けれど、その声は高かった。
食卓に、女の子がいた。
朔の席だった。窓を背にする、椅子の左脚が少し短い席。箸を持つ右手の脇に、自分のものではない白い茶碗が置かれている。少女は卵焼きの端を崩し、醤油の皿へ運ぶ手を途中で止めた。
顎のあたりで揃えた茶色い髪。右の耳だけが見えている。黄土色のカーディガンの袖は手首より短く、肌に薄い食卓の影が落ちていた。
母がその皿へ手を伸ばした。
「それ、まだ熱いところが——」
言いかけて、朔に気づいた。
母の顔に、よそ行きの笑みが浮かんだ。宅配の人に判を押すときの、相手が何をしに来たのか分かっている笑い方だった。
「灯のお友達?」
足の裏が冷たくなった。靴下越しに床の硬さを感じる。さっき脱いだ運動靴が、ずいぶん遠いところにある気がした。
「母さん。その子、誰?」
少女は箸を置いた。
皿の上に渡さず、箸置きへ戻した。知らない家で勝手に食事をしている人が、こんな細かいことを気にするだろうか。そう思った自分を、朔はすぐに打ち消した。
「誰って、こっちの——」
少女は母を見た。自分を見てほしい、という顔だった。その顔が朔には気に入らなかった。自分の方が先に、母へ聞いたはずだった。
「あなた、お名前は?」
母が言った。
朔は返事をしなかった。母の右手がエプロンの腹のあたりを一度撫でる。困るとそうする。手に何もついていなくても、拭うように。
いつもの癖だった。
知らない人なら、よかった。
母が偽物なら、そう叫んで走り出せた。けれど、葱を切り直す音も、エプロンへ触れる手も、仕事をしているときだけ少し下がる右の肩も、全部知っていた。
「朔」
自分の名前なのに、教室で代読を頼まれたもののような声になった。
「真壁、朔」
母はその姓を聞いて、少女を見た。少女は朔を見ていた。さっきまで椅子の背へ預けていた体を、少しだけ起こしている。右腰の小さな鞄を確かめるように、指が動いた。
「ここ、瀬尾の家ですけど」
朔は食卓の角に手をかけた。
そこには傷があった。小学校のとき、父と作った木の船をぶつけた跡だ。丸い塗膜が一枚剥がれて、下の白っぽい木が見えている。
指が、傷に引っかかった。
家まで自分を知らないふりをするほど、出来のいい嘘ではなかった。
第1巻・冒頭より
書籍情報
日本語縦書きの電子書籍として
Kindleでの刊行を準備しています。
第一巻
いつもの家に、知らない家族がいた。十二人の出会いから、七日間が始まる。
刊行準備中第二巻
別の家庭で見つけた、母の知らない顔。敵の思い出が、自分の正しさを揺さぶる。
刊行準備中第三巻
一緒に生きたい。自分も消えたくない。近づいた十二人に、最後の日が迫る。
刊行準備中発売日と販売ページは、確定後にこちらでご案内します。
販売ページ準備中